ラツィーについてのいろいろな話。A Story about Lazi. / una historia acerca de Lazi.
|彼女と出会ったのはニューイヤーズイブの夜だった。
僕は酔っぱらった友達と四人でブダペストの街を歩いてた。 どこかのクラブで新年を迎えたかったのに友達が「ここもダメ、あそこもダメ」と文句ばかりつけてどこにも入れなくてずっと雪の中を歩いてた。寒すぎて我慢できなくて「おまえが気に入らなくても次の店に入る!」と宣言した。やっとあたたかいところに入って一息ついた。
僕らがクラブの入口のところで濡れたコートを脱いでると、女の子が友達のことを探してた。 だから「僕が探してあげるよ」って言ったんだ。顔も名前も知らなかったけど。
※あ、写真はイメージです。
ダイニングのテーブルでラツィーが嬉しそうに話してくれるカタとの出逢い。 僕らはカウチサーフィンでカップルに泊めてもらうといつも馴れ初めを聞く。これがとってもおもしろい。
こないだ、僕の誕生日にライヴをやったんだ。ライヴハウスを貸し切って家族や友達を招待して、僕と友達で演奏してカタが歌った。
そこに僕とカタが大好きな歌手を彼女に内緒で呼んだんだ。直接電話で「来てくれませんか」とお願いしたら快くOKしてくれた。リハーサルに現れた彼を見た時の彼女の顔!その日は最高の一日だった。盛り上がりすぎて、ライヴのあとに一緒に飲んで彼はそのまま家に泊まって、翌日ランチを一緒に食べてから帰っていったんだ。
僕らにライヴの映像をいくつも見せながら興奮して話すラツィー。きっとその日のことを思い出してるんだね。
ラツィーとカタには3人の子供がいる。小学生の男の子と女の子、来年幼稚園に行く女の子。朝から2階にあるラツィーのスタジオ部屋でドラムやギター、キーボードをがんがん鳴らして遊んでた。僕らも一緒に遊んでた。
僕らが到着して2日目にカタはこどもたちと一緒に彼女の実家に帰った。なのでラツィーがハンガリーの郷土料理グーラッシュスープを作ってくれた。
味の決め手はラツィーの母さんが作るトマトソースとパプリカソース。ちょっぴり辛くてあたたかいスープが胃に染みる。一緒に飲んだハンガリーの地ぶどうで作る白ワイン。これを飲むと『男の子が出来る』という魔法のワインらしい。
翌日は朝からかわいい巻き毛のマンガリッツァ豚を見に行って帰って来た僕ら。
夕方、仕事を終えて戻って来たラツィーと合流。車はカタの実家を目指す。カタにも子供たちにも内緒で僕らと一緒にサプライズ訪問するんだ、とにっこり。スイカが大好きなラツィーは道端で売っているスイカを真剣に選ぶ。トランクからナイフを出してスイカを割って味見までする徹底ぶり。
高速道路で1時間。到着したらカタも子供たちも、とっても喜んでくれた。カタのお姉さん夫婦が牧師をしている教会でパイプオルガンを演奏したり、塔にのぼって鐘をならしたり。晩ごはんも御馳走になって、庭でワインや古いブランデーを飲みながらみんなで話す。
数年前に亡くなったカタのお父さんはワインの造り手さんだった。庭には彼の残した地下セラーがあった。そのセラーには今はワインは1本も入ってなかった。美味しいブランデーのグラスを夜空に向けて、カタのお父さんに乾杯した。ブランデーはとても柔らかくあたたかく静かに喉を滑り落ちていった。
夜遅くにカタの実家を出発。再び車を走らせるラツィー。短い間だったけど僕たちは本当にたくさんの話をした。日本にいる彼の友達のこと、徴兵を逃れた若き日のこと、ブダペストのホステルで働いていたこと、近所の美味しい食堂のこと、自分の実家で作るサラミソーセージのこと。ブランデーで気持ちよくなった僕は後部座席でうとうとしてしまっていた。おそってくる眠気の中で「あー楽しかったなー」とこの数日間をぼんやりと思い出しながら。