遠き昔のワイナリー⑥ The Winery in Early Times no.6 / La Bodega en Los Primeros Tiempos no.6
|2015年4月21日、今日がワイナリー最終日。ルイが僕らとシュンをサンタフアナ&ジュンベルに連れて行ってくれる。
サンタフアナとジュンベルはルイのワイナリーからそれぞれ80キロ、50キロほど離れたところにある村の名前。ルイはそこのぶどう畑からぶどうを買わせてもらっている。ワイナリーから高速道路に乗ってしばらく走り、一般道から脇道、オフロードに入るところまでは昨日と同じ。今日はそのオフロードが大きな川に突き当たった。ビオビオ川。昔、原住民がスペイン軍の進行を長年にわたって食い止めた場所。今日はその川を渡る。
川のほとりでしばらく待っていると向こう岸から船がゆっくりとやってくる。車が2台乗るのがやっとという小さな船。浅瀬が多いので、船はぐるりと遠回りしながら向こう岸へと進んでいく。
一緒に船に乗っていたおじさん。近所らしいがまさかの徒歩。ルイが「送るよ」と声をかけておじさんを車に乗せる。車は船を降りてまたオフロードを走る。おじさんを送っていって、サンタフアナのぶどう畑に向かう。ゲートをくぐってしばらく野原を進んで、木のトンネルをくぐり、家の前で車を止める。坂道を降りていくと信じられない光景が目の前に広がる。
小さな峡谷の真ん中に小高い丘。全面に陽の光があたって輝いている。声も出ず、ただ見とれてしまった。 ドンと呼ばれる畑の主のおじいちゃんとルイが話している。どうやらシュンがこの畑で働くという話をしているらしい。ドンは「やせてるけど大丈夫か?」と聞いていて、ルイが「大丈夫!」と太鼓判を押している。その横で牛たちがぶどうの房をもぐもぐと食べている。シュンと三人でぶどう畑を見て回る。
ここにはいろんな種類のぶどうが植えられているらしい。株の仕立て方も様々で、つまみ食いしたぶどうの味も様々だった。お昼ご飯を食べ終えた人たちがまた収穫に戻っていく。ドンにお昼ご飯をごちそうになって畑に戻ると丘の一角でみんながぶどうを摘んでいた。
斜面でぶどうを摘み取って手元のバケツに入れる。いっぱいになったバケツを木製のリヤカーまで運んでひっくり返す。ぶどうでいっぱいになったリヤカーは牛たちがゆっくりと運んでいく。時間がゆっくりゆっくりと流れているのを肌で感じる。
ここで暮らすってどんな感じなんだろう。ジュンベルに向かう車の中でふとそんなことを考えた。ジュンベルで立ち寄った農家さんでは去年できたワインが涼しい蔵の中でプラスチックのタンクに入って寝かされていた。そのワインは優しくて涼やかで体に染み込んでくるようなワインだった。
ルイやシュンはこういうワインを作りたいんだと思った。この村で数百年ずっと受け継がれて来たぶどうで、数百年前から変わらない作り方で出来るワイン。この村の近くに住んでいる人たちが昔から飲んでいるワイン。
いろんな思いを抱えてワイナリーに戻ったぼくらを待っていたのはサンタフアナから大量のぶどうを運んで来たトラックだった。くっそ重たいぶどうの荷下ろしをみんなで最後にやった。ぶどう畑にゆっくりと日が落ちていく。真っ赤な夕焼けを見ながらみんなで飲んだ「おつかれ一杯」の白ワインは体にすーっと染み込んできた。 ワイナリーを出る時にルイが「イースター島で飲めよ」とワインをたっぷり持たせてくれた。チジャンのバスターミナルまで送ってくれる車の中でルイは「シュンはワインに対してとてもクレイジーだ。おれはクレイジーなやつが好きだ」と笑っていた。ぼくは「シュンは自分のワインをチリで作ることが出来るのかな?」と聞いたら、ルイはまた笑っていた。