ひとつのプレーが世界を変えることもある Uma jogada pode mudar o mundo. / One play can change the world.

「ほな11時くらいから出ましょか」
南米の中でも危ないと言われているブラジル、リオデジャネイロ。
この都市のセントラルステーション近くにある日本人宿『Zico』でのひとコマ。
もちろん午前11時ではない、午後11時つまり23時のことだ。
危険な都市では日没前に宿に帰る。
『いのちだいじに』が信条の36歳男子バックパッカーがなによりまず自分と約束したこと。
リオに住んで3年という宿の主人かつ関西人SHINGOさんのこのセリフを聞いて「いやいやいやいや!」と突っ込むと思いきや「いいっすねー!」と即のっかった。男とはそういういきものである。
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リオが最も盛り上がるという土曜日の夜、僕らを含む宿泊者5人とSHINGOさんは全員でLAPA地区までウキウキ通りを歩いた。
昼間歩いた時には閑散としていた通りに人が溢れている。そして音楽も溢れている。
宿から歩いてまず最初に目にしたのが『Rio Scenarium』の大行列。
ここは「リオで一番盛り上がる」と言われているお店。中からかっこいいサンバの音楽が聞こえてくる。入口で料金を払って身分証明書を見せて入っていくがそれにしても行列が長い。50人は軽く超えている。そしてここ、日曜と月曜はお休みのよう。
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*Rio Scenarium
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妖しく光を放つカテドラルを見ながらLapa地区の中心まで静かな道を歩く。途中で警官たちに止められて金網に手をついているカップルがいた。ものものしい。やはりここは危険な場所。あまり見ないようにして通り過ぎる。
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Lapaのシンボル、白い水道橋が見えるとまた音楽とざわざわした喧噪が戻ってきた。
昼間はひとつもなかった屋台がそこかしこに。シュハスコ(串焼き肉)、ホットドッグやハンバーガー、やきそば。セラロンの階段に向かって細い通りに入る。その通り沿いにあるお店が軒先にテーブルを出しておにいちゃんが2人でカイピリーニャを作っている。
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「ここでカイピリーニャ飲みましょか」
カイピリーニャはカシャッサというサトウキビを原料としたブラジル独自の蒸留酒(ラムとは違う、一緒にしないで!ということらしい)とレモン、砂糖、氷で作るシンプルな飲み物。だからこそ奥が深いんだなということをこのお店で感じた。
このお店ではまず、でかいタッパーに入ったカットレモンをたっぷりプラスチック容器に入れる。
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このプラスチック容器は駄菓子屋の『よっちゃんイカ串』が入ってたような蓋付きの容器。
そこにたっぷり砂糖を入れてレモンにまぶしてちょい放置、なじませる。
なじんだところを棒でつぶし、果汁をたっぷりとしみださせる。
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氷とカシャッサを入れてシェイクシェイク。丁寧にシェイクシェイク。
ちょっと混ぜ過ぎかもなというささやかな胸騒ぎがしたところで終了。
プラコップにそそがれたカイピリーニャはアルコール強いのにすごくまろやか。
今まで飲んだ中でもベリーベリー最高の1杯。
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それを持って、近くのセラロンの階段までいき、夜風の中そのカラフルなタイルに腰掛けて涼みながら飲むという贅沢。
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チリのアーティスト、ホルヘ・セラロンさんが20年かけて作ったというこの階段。
世界中の人がセラロンさん宛にタイルを送り、そのタイルがそこかしこに使われているのだがこれは関西人が送ったんじゃないか?と思われるタイルも。
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*Escadaria Selaron
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カイピリーニャ飲んだあとは屋台でシュハスコ。雨が降ってきたのでちょっとだけ雨宿り休憩。
雨が止んだのでもう一度水道橋をくぐってLargo da Lapa通りを歩く。
ふと見たお店から聞こえてきたのはサンバじゃなくてロック。
通りから覗くと目の前がステージ裏。で演奏してるのは60歳くらいのおじさん4人組。
有名な曲のカバーだけどめちゃめちゃうまいし、なにより楽しそう!
ギターソロもガンガンやって、曲のつなぎ方もビシッと決めて、かっこよくアレンジもしたりして。
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店内ではステージのまんまえではじけて踊ってる50代のセクシーな女の人がいたり、嬉しそうにステージを眺めているのもみんなおじさんおばさんたち。もちろん若者もいるけど、おじさんおばさんの笑顔やダンスがすごく印象的だった。こういう空間を僕らの街でも作りたいと思った。
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平日は普通にサラリーマンやってたり、バスの運転手さんだったりするおじさんが土曜日の夜にバーでライブ。お客さんはみんな楽しそうに飲みながら見てたりしてるけど、ちょっと好みの綺麗な女性が目の前で幸せそうに踊ってくれて。ボーカルはギターのおじさんだったり、たまにはドラムのおじさんだったり、もちろんみんなが知ってる人気の曲を自分たちらしく演奏して、歌って、汗かいて。店の外からもたくさんの人たちがそのライブを見ていて曲の合間にすげえ!とかいいね!とか声かけてくれたりする。ステージが終わったら普通にテーブル座って乾杯してビール飲んでまわりのお客さんと話して。それを見てた他のおじさんおばさんが「自分たちもやりたい」ってなって…そういう空間。
防音のスタジオみたいなお店じゃなくて、地下のライブハウスみたいなお店じゃなくて、通りの外まで音楽が聞こえてみんながのぞきたくなるようなお店。子供が中学生になったらお留守番させて、夫婦ふたりや友達同士で週末の夜に遊びに行けるようなそんなお店が作りたいと思った。
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「夜中のリオを歩けるなんて考えてなかったでしょ?」
宿を出た時にSHINGOさんに言われた。
確かにここに泊まらなければ夜中に街に出るなんて考えもしなかったと思う。
そしてもうひとつ。日本にいる時には考えてなかったやりたいお店のかたちがそこにあった。
自分たちがやるお店のかたち、その可能性が旅をしながら少しずつ少しずつ広がっていくのを感じている。
ひとつのプレーが世界を変えることもあるとジーコは言った。
ひとつの出会いが自分を変えてくれることがたくさんある。これはほんとうに幸せなことだと思う。
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*日本人宿『Zico』のブログ。分かりやすいリオの情報がたくさん。
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