トドラで見た風景　The Landscape in the Todra. / El paisaje en el Todra.

はじめの予定には全くなかったモロッコのトドラ渓谷。ロッククライミングの聖地と言われてもあんまり興味ない。ノマドという遊牧民に会いに行くトレッキングの話にもあまりのっかれない。ティネリールという街から車で30分のなんにもない田舎。でもそこにある宿のことをいろんな人のブログで読んでからはじめて興味を惹かれだした。

その宿『Meison d’hôte La Fleur』はトドラの村のはじっこ、トドラ渓谷の入口そばにある。現地の人からも「ノリコ！ノリコ！」って大人気のオーナーさんがティネリールのバス停まで迎えに来てくれた。共にラクダに乗った5人でそのままメルズーガから来たかたち。ターミナルのカフェでひき肉のサンドイッチ食べてから乗り合いバスで宿まで。片道7ディルハム。

着いたその日は宿でゆっくり。昼過ぎに川に遊びに行ったくらいかな。この川では洗濯もできる。

夕方からロッククライミングするという元気な女の子についていって見学。30mの高さまで登る。すげー。

で、アジのにんにくパクチーはさみ揚げという美味しい晩ごはんのあと早々に就寝。ラクダ＆砂嵐ベッドで激疲れしてて、結局体調を崩してしまっていたみたい。。。

僕らがトドラに着いたのが9月22日。イスラム教の正月ともいえるイード・アル＝アドハー（犠牲祭）が9月24日。正月は全ての交通機関が止まるので、僕らふたりは結局9月26日のバスを予約してトドラでゆっくりすることに。翌日の朝早くに僕ら以外のみなさんはトドラを出発。僕らはバスの切符を買いに行ったくらいで、あとはとにかく体を休めた。

夕方少しだけ辺りを散歩。トドラガールズになぜか「一緒に写真撮って」とせがまれる。

夜はフェズで買って来たビールやワインを飲んでまったり。僕ら以外にお客さんはスペイン人の陽気なお兄さん2人と、この日メルズーガからやって来た日本人の女性2人のみ。晩ごはんは唐揚げ。おいしかったなー。

そして24日は犠牲祭当日。村のそこかしこで生け贄にささげられていく羊たち。犠牲になるのはみんな男の子と決まっている。この日はどの家でも羊を食べる。肉はもちろん、内臓も全部残さず美味しく食べる。おすそ分けしてもらったブロシェット（串焼き）はハーブと塩だけのシンプルな味付けだったけど羊臭さはほとんどなくて美味しかった。 一匹だけはじめからおわりまでしっかり見せてもらった。写真は一枚も撮らず、目は少しもそらさず。さっきまで生きて動いていた羊が、ものの20分くらいで皮を剥がれて内臓を取り出され、きれいなお肉になっていくその過程を。

モロッコの子供たちは物心ついたころから毎年この光景を当たり前のように見ている。2歳くらいの男の子がお父さんの真似なのかな、刀を振りかぶって打ち下ろすポーズをニコニコ笑いながら見せてくれた。ほんと無邪気でかわいいと思った。屠殺の現場を見てお肉が食べられなくなった人の話も聞いたことがあるけど、そういう気持ちにもならなかった。時間がたった今でも言葉にするのは難しい。でも、見られてよかったと心から思う。

犠牲祭の翌日、ノリコさんと僕らと日本人女性2人でタクシーをチャーターしてイミルシルという村の近くにある湖を見に行った。”Lac de Tislit”という女性の湖と”Lac d’Isli”という男性の湖。

トドラ渓谷を通り抜け、小さな村をいくつも通りすぎて片道3時間弱の旅。途中、車を降りて見たノマドと呼ばれる遊牧民の人たちがトドラ渓谷の岩壁を羊と共に歩く姿。

湖のほとりでノリコさんの友達家族にごちそうになった、濃厚な風味の澄ましバターに浸けて食べる自家製パン。

そして空の色と同じ青い湖”Lac d’Isli”。

一日中雨が降ったりやんだりで、帰り道は水没している場所がいくつもあったけど僕らのドライバーさんは沈着冷静に自らの足で水の深さや障害物を確認し、次々と渡っていく。ほんと惚れるわ。

4泊5日と結局長居したトドラ渓谷。スカッと晴れる日はなかったけど、天然の渓谷が見せてくれる様々な表情はついに見飽きることがなかった。カラー写真もきれいだけど、陰翳がとてもきれいなのでモノクロ写真で撮りたくなる。次にモロッコ来るならまたトドラ渓谷でゆっくりするのもいいかなと思った。