スペインのワイナリー、ボデガ・マラニョネスへ。We went to the winery in Spain “Bodega Marañones” / Fuimos a la bodega en España “Bodega Marañones”

「最初に来た時、ここはまるで森のようだった。どこにぶどうの樹があるのかまるでわからなかった。ぼくらは本当にたくさん働いた。そしてやっとこの場所はぶどう畑に戻ったんだ」

古い石垣で囲まれた、ところどころにオリーブやいちじくの樹が植わっている、庭みたいな場所を歩きながらフェルナンドは話す。

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長らく放置されていたぶどう畑。 後を継ぐ人がいない、人手が足りないなど様々な理由があるがぶどう畑を手入れするにはとにかく手間がかかるという。

収穫後、冬場を迎える前に土寄せといって、畑の土を深く耕してぶどうの根元にこんもりと土を盛る。寒さからぶどうの樹を守ってやるための作業。

そして次に剪定という最も重要な作業。一本一本のぶどうの樹の枝を見て、不要なものを切り取って整える。どんなワインを作りたいかでどう剪定するかが決まる。もちろん手作業。

春になるとぶどうの樹は一斉に成長を始める。この時にフェルナンドたちがやっているのは水の管理だ。雨が降ったりして比較的水分が多めにある時期は、畑に生えているハーブや花をそのまま残してやりぶどうに水分が行き過ぎないようにする。乾燥する時期に入るとそれらを刈り取ってぶどうに水分がちゃんといくようにする。

その他にも若い樹を守るために添え木をしたり、虫や鳥や動物から守るために柵やネットを整えたり、やることはいくらでもある。ぶどうの樹はとてもデリケートだ。病気になったり、虫がついたり、気温の変化や雨に負けてしまったり。心配ごとは尽きない。

夏が終わりに近づくとぶどうはだんだんと色づき始める。自分の作りたいワインのイメージに合うベストの状態で収穫するために日々チェックを怠らない。フェルナンドの持っている畑は標高も、土壌の質も、日当りも違うため収穫の時期は最大で2ヶ月くらいずれる。もちろん全てを手摘みで収穫する。収穫したぶどうを丁寧に選別してそこからようやくワイン作りがスタートするのだ。

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Bodega Marañones ボデガマラニョネスはマドリードから車で西に向かって1時間ちょっと、Pelayos de la Presaという人口2500人の小さな町にあるワイナリー。フェルナンドはここで自分の目指す「エレガントなワイン」を地元のぶどうを使って作っている。訪ねたのは5月27日、天気は快晴で気温は30度を越えていたと思う。大きなガレージの中がワイナリーになっている。天井が高くて、中はとても涼しい。とても忙しい時期なのに畑を案内してくれて、ワイナリーでの試飲もさせてくれた。その間フェルナンドはずーっとワインについて、ぶどうについて熱く語ってくれた。

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この町の近郊にあるぶどう畑を回りながら、車で15分ほど走るだけで畑の気候条件が全然異なるということ。畑の土壌を実際に見せてくれながら、この土壌がぶどうの味にどれほどの影響を与えるのかということ。畑の中に生えているチェリーを食べながら、ぶどうだけじゃなく他の植物があることで自然のバランスが働くんだということ。

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ワイナリーに戻ってワインを試飲しながら、これは数年経つとこういうふうに変化していくはずだとか、この樽のワインとこの樽のワインをブレンドしてこういう味のワインを作りたいんだとか。Bodega Marañones以外に、違う作り手と共同でやっているプロジェクト「Comando G」の現場でも、同じ作り方をしたワインでもぶどうが収穫された畑によって味がこんなに違うとか、グルナッシュという地元のぶどうが持つ可能性をいろいろと実験していることとか。

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日本にいる時にBodega Marañonesの白ワインを飲んだこと、すごく美味しくておどろいたことを伝えるとニッコリ笑って喜んでくれた。

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彼の目指すエレガントなワインを作るために不可欠なのが樹齢30年から70年の樹からとれるパワフルで複雑な味わいのぶどう。若いぶどうの樹はまだまだ十分に根を張っていないからワインになった時にどうしても味や香りが足らない。フェルナンドは1978年うまれの37歳。つまり彼の先人が植えてくれたぶどうから彼のワインは出来ている。 そして彼のワインが彼の目指す味わいに到達するのはおそらく10年くらいの時間を要する。

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車で案内してくれた畑の中に、まだ若い樹がたくさん並んでいる場所があった。彼が「50年後のために」と植えた樹。 50年後に実ったぶどうで作るワインの味をイメージしながら一本一本植えていったのかなと想像してみた。モスカテルという地元の白ぶどうで甘口のワインを作りたいんだという。90歳近いおじいちゃんになって、立派に育ったぶどうの樹を眺めながら飲む優しい甘さの白ワインっていったいどんな味なんだろうと想像してみた。自分だったら、まさに甘露!とか言っちゃうんだろうな、きっと。

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